手犲C邵酩頁杰記念 特別インタビュー

  • 1週目
  • 2週目
  • 手塚治虫特集へ

松谷孝征さん (手塚プロダクション代表取締役社長) ストーリーがしっかりあるのが手塚作品

手塚治虫先生のマネージャーとして、数々の制作現場を経験してきた松谷孝征さん。手塚先生原作のアニメーション映画やTVシリーズのプロデューサーとしても活躍し、近年では映像産業振興機構の理事長として、手塚作品に留まらず、日本のさまざまな素晴らしいコンテンツを通じ、海外との交流を深めるため、活動されています。

間近で手塚先生を見てきた松谷さんだからこそ知る、貴重なエピソードの数々をお伺いしました。

Interview

  • ―― もともとは手塚先生の担当編集者でいらっしゃったんですよね。

    松谷 1972年の10月中旬から翌73年の1月初めまで、どういうわけか、私が手塚番をしました。私が所属していた「週間漫画サンデー」で正月増刊号での50ページの読切り、そして本誌1号、2号2週各25ページ、やはり50ページの読切りを企画し執筆をお願いしました。会議で企画があがった時は、私は「今さら手塚治虫はないでしょう」と反対したにもかかわらず、私が担当することになりました。当時、手塚は、手塚プロ以外の虫プロと虫プロ商事が大変な時期で、創作に専念できず、作品がとても少なく、入り込めたわけですが、それでも連載が何本かある中、単発で飛び込んだものですから、私は2ヶ月半泊まり込みでようやく、100ページ全て、〆切ぎりぎりで受け取ることができました。私は1957年、小学校を卒業以来、手塚作品を読んでいなかったのですが、その2ヶ月半の間に、手塚プロにあった「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝」等を再び読み直して初めて、手塚治虫の凄さを、知ることができました。手塚治虫はこんなことを子どもたちに伝えようとしていたのかと。大人になるまで知らなかったとは情けないですね。
    当時のマネージャーは別会社をおこし、そちらの仕事をしていた為、夜の仕事場はマネージャー不在状態。マネージャーから皆の夜食代に使ってくださいと1万円渡される。当時月給が5万円くらいの頃。こりゃあいいや、なんて(笑)(ちゃんと手塚とアシスタントの夜食代に使いましたよ。念の為)そしてやっと読み切り2作品が年末年初に仕上がった後に、マネージャーが辞めるということで、手塚とマネージャーとの間で後任のマネージャーにと、僕の名前が挙がったようです。それで手塚プロへ入社することに決めました。

    松谷さんが担当編集者として手がけた読み切り作品

    • 火の山

      『ペーター・キュルテンの記録』

    • 鉄の旋律

      『レボリューション』
      (『鉄の旋律』収録)

    ウラン

    ―― 大変な時期に入社されたんですね。

    松谷 まぁ当時僕も28歳位でしたし、いろいろ刺激もあって面白いかなと思って、・・・というとちょっと不謹慎ですけど・・・。案の定しばらくして二つの会社が倒産して、大変な騒動になりましたが、負債を全て手塚が引き受け、カタチ的にはケリがつくと、手塚自身もスッキリしたのか、気分一新描きはじめたんです。そして始まったのが『ブラック・ジャック』。当時大変人気になりました。それから、おつき合いがほとんどなかった講談社からも、全集を出したいという申し出があって。手塚に唯一褒められましたよ、「松谷氏すごいですネ!」って。別に私がマネージャーになったからというわけではないんですがね。

    ―― 『ブラック・ジャック創作秘話』(原作:宮崎克/漫画:吉本浩二)でも描かれているように、手塚先生の制作現場は多忙を極め、過酷なイメージがあります。

    松谷 例えば昼過ぎの時点で、翌朝までに20P上げなきゃいけない状況で、その次の締切はその夕方……なんて状況はザラ。そんな中、「松谷氏、15分だけ寝かせてください、15分経ったら必ず声かけてください」と言って、仕事場脇の三畳一間に横になって。15分ごとに声かけて、寝そべったまま絵を描いていくんですが、しばらくカリカリとペンの音がしてもすぐ、やはり寝てしまうんですね。そうすると編集者に「松谷さん、ほら、ペンが止まってるよ!」なんて急き立てられるから、僕も声をかけて……そうこうしているうちに朝がきてしまいます。当然数ページしか進まない。これはもう、3時間なら3時間、まとめて寝かせようじゃないかって編集者たちと相談すると、当の担当編集者は「冗談じゃない」というのですが、その次の次くらいの編集者は、それに賛同してくれるんですよ。「寝かせてあげなよ、俺の時にボロ雑巾みたいになったら困るだろ」って。そして寝てもらうことになり、結果、3時間寝た後はものすごい勢いで書き上げるわけです。1時間に4、5枚とか。

    • ブラック・ジャック

      『ブラック・ジャック』

    • ブラック・ジャック創作秘話

      『ブラック・ジャック創作秘話』

    火の鳥

    ―― うわぁ、さすが……手塚先生と言えば、数々の伝説がありますね。

    松谷 漫画原稿の締切に追われながらも、海外のアートアニメフェア用の作品を創り、出品したり、取材旅行に出かけたりしてたんですが、ブラジルだったかな、国際電話でアシスタントに原稿の指示出すんですけど、紙に1、2mmの方眼を書かせるところから始めて、1コマ目の右から3番目と下から5番目に点を……なんて、折れ線グラフみたいな絵を描かせるんです。編集者も「やってられるかっ!」ってしびれ切らして。結果、電話代が原稿料の2倍くらいになりました。あと、海外で描いた原稿を日本に送るのに、少しでも早く届けようと、客室乗務員やパイロットに頼んだ、なんてこともありました。今みたいに、メールでポンと原稿が送れる時代だったらよかったのにね。

    ―― 海外でも『鉄腕アトム』の米NBCでの放映に始まり、早くから手塚作品は人気がありました。

    松谷 当時は海外のTV作品は、トムとジェリーなど短編の動きのおもしろさで見せるものが多く、一話、一話が短いものが多かったんですが、ストーリーがしっかりした30分のTVアニメは驚きだったんでしょう。近年では漫画でも『アドルフに告ぐ』等大人向作品も各国で非常に人気があったり、『火の鳥』、『ブッダ』など、ストーリーがしっかりしていて、小説を超えるような大作も理解され、日本漫画があらためて認知されてきています。

    • アドルフに告ぐ

      『アドルフに告ぐ』

    • 鉄腕アトム

      『鉄腕アトム』

    チンク

    ―― 色々エピソードを伺うと、やはり手塚先生はすごい方だったんだなぁと感じます。

    松谷 『アドルフに告ぐ』の時も、『週刊文春』の担当者がいっぱい文献を持ってきてくれるんですが、「歴史は頭に入ってますから、こんなのじゃしょうがないんです。将校の襟のバッチとか袖の形を確認するので、写真を持ってきてください」って。記憶力がものすごいんです。けれどね、あれだけSF物描いてるのに、機械音痴だったんですよ。カメラも扱えなかったし、駅に行っても、自動券売機で切符の買い方も知らないんだから。もっともひとりで出掛けたりすることがほとんどなかったので無理はないですよね。

    ―― えーっ!意外です!

    松谷 でも作品の電子化にあたって、あれだけ漫画のコマ割りや見開きページでの見せ方にこだわった手塚のことだから、もし生きていたら、昔の作品を載せるなんてって、絶対反対したでしょうね。スマホの縦スクロールの画面に合わせて「これ用に描き直します!」なんて言い出したんじゃないかな。「ところでこれ、どういうものですか?」なんてね(笑)

  • 大人になってからこそ読みたい名作   BEST

    メジャーな作品だけじゃない!手塚イズムが感じられる隠れた名作ベスト3

    タイガーブックス

    『雨ふり小僧』
(『タイガーブックス3巻』収録)

    山奥の分教場に通うモウ太。本校の生徒には「田舎者」といじめられる始末。そんな時、モウ太は古ぼけた傘の妖怪と出会う。「雨降り小僧」と名乗るその妖怪は、モウ太のブーツと引き換えに、3つの願いを叶えると言うが……

    comment
    「約束」がテーマとなっている作品。主人公が大人になって、ふっと約束を思い出して雨ふり小僧に会いに行くんですが、雨ふり小僧は妖怪だから全然歳取らないんだよね。切ないラストシーンも含めて、もともとは子ども向けの短編だけど、大人が読むとなんとも感じ入る作品です。絵もかわいらしいしね。

    ライオンブックス

    『荒野の七ひき』
(『ライオンブックス1巻』収録)

    汎地球防衛警察連盟の潮と味島は、宇宙人のアジトへと乗り込む。見事大勢の宇宙人を退治し、数名を捕虜とするが、ひょんなことから徒歩で帰路につくことに。宇宙人たちと話しているうち、実は彼らが友好的なことがわかり……

    comment
    手塚の魅力として、スケール感のある宇宙からの視点、あるいは矮小な昆虫からの視点と、様々な視点から人間や地球を捉えるというのがあると思うんですが、この話は宇宙人が自己犠牲を払うわけです。なぜそこまで?という問いに「私たちにはわかりません、何故地球人がそれをできないか」と。大変に示唆的ですね。
    チャオ

    ファウスト

    『ファウスト』

    ファウスト三部作は独・ゲーテの戯曲をモチーフとした作品。原作をベースに幻想的なアニメーションタッチで描いた『ファウスト』、日本の戦国時代を舞台に武士・不破臼人(ふわ うすと)が主人公の『百物語』、70年代の学園闘争の嵐吹き荒れる日本を舞台にオリジナルストーリーを展開する『ネオ・ファウスト』。

    ファウスト三部作

    • ライオンブックス

      『百物語』
      (『ライオンブックス5巻』収録)

    • ネオ・ファウスト

      『ネオ・ファウスト』

    comment
    小さい頃から自宅にある世界全集を読んでいたという恵まれた家庭環境も、手塚に大きく影響していたのでしょう。それぞれに興味深い点はありますが、とくに後2作で悪魔・メフィストフェレスを女性として描いているところ。世界中で演劇や映画など様々な形で作品化されていますが、全て観ているわけではありませんが、少ないのではないでしょうか。
    ヒゲオヤジ
  • ユニコ レオ、ライヤ
  • 松谷孝征

    1944年横浜生まれ。 1967年中央大学法学部卒業。 実業之日本社時代に手塚治虫の担当編集者を経験後、1973年4月手塚治虫のマネージャーとして、株式会社手塚プロダクションへ入社。 1985年4月から代表取締役社長に就任、現在に至る。 カラー版『鉄腕アトム』、『ブラック・ジャック』等TVシリーズや、『火の鳥』、『ジャングル大帝』等劇場版アニメ映画のプロデューサーとしても活躍。NPO法人映像産業振興機構理事長。一般社団法人日本動画協会名誉理事。

  • 手爛廛蹈瀬ション

    1968年設立。1976年に練馬区富士見台より新宿区高田馬場に移転。社内では数々の名作を彩るキャラクターたちが迎えてくれる。

アトム

ページトップへ