企業の広報や宣伝担当者にとって、コンテンツを制作時の写真撮影は重要なものです。しかし、カメラマンや制作担当のディレクターなどに自分たちの作りたいものをどう伝えるかは簡単なことではありません。30年以上のキャリアを持つカメラマン・田中振一さんに、カメラマンとのコミュニケーションをどう取っていけばよいかを聞きました。
カメラマンが伝えてほしいこと
田中さんは、オーディオ系の電化製品を撮影する「物(ぶつ)撮り」でアシスタントとしてデビューして以来33年間、現場で試行錯誤を続けながら、カメラマンとして活躍してきました。雑誌、書籍など印刷物からWebサイトなどのさまざまなメディアで、幅広いジャンルの写真撮影の実績を重ねています。
そんな田中さんに、撮影のときに知っておきたい情報、伝えてもらいたい情報を聞きました。(構成:ツールナビ編集部)
何も情報がなく、ただ「写真を撮ってくれ」と言われることがたまにあります。カメラマンに頼んだら、きっと、かっこ良く撮ってくれるんだろうと思われているのかもしれません。ただ、何も情報がないまま撮影すると、例えば人物の写真だと、パスポート用の正面写真になってしまいます。やはり写真撮影をする場合は、最低限、知らせてほしい情報があります。
<カメラマンが知りたい情報>
- その写真はどこに掲載されるのか
- 何を撮るのか。誰を撮るのか、人数は何人か、どこで撮るのか(室内であれば部屋の広さなども)
- 写真を使うのは写真の長辺を縦に使う縦位置か、横に使う横位置か
- 必要なカットは全身か、バストアップか。正面を向いた顔が欲しいのか。自然な表情なのか、まじめな顔なのかなど、どんな表情が必要なのか。目線はカメラ目線なのかどうかなどの希望を伝えてほしい
- 印刷物の場合の基本的な情報(雑誌なのか、ポスターなのか、など)
また、棒人形のような絵でいいので、ラフスケッチがあるといいですね。明確な情報がないと、カメラマンだけでなく、写真を撮られることに慣れていない方も大変です。そのため、現場で無駄な時間が多くなりがちですし、期待する仕上がりとならない原因となります。事前に情報をいただいくことで、機材や照明も準備がしやすくなります。
かつて、雑誌の撮影などでは、ロケハンをしてさまざまな確認をすることが普通に行われていたのですが、最近では予算の関係などでそうした現場ばかりではありません。だとすると、余計に事前での情報共有がほしいですね。
現場では明確な指示を出してほしい
クライアントの皆様へお願いしたいことは、現場では権限のある担当者を付けていただきたいと思います。どのように撮ればいいか、質問をしても担当者の方が判断できなくて答えが出てこないケースもけっこうあります。
例えば、被写体となる方が社長や役員などだと、現場でカメラマンや制作会社のディレクターがお願いしづらいことがあります。現場でそうした方々とコミュニケーションがとれる体制をとっていただくことは、ぜひお願いしたいことです。
そして、カメラマンに対しては明確な指示を出していただきたいと思います。担当者がどうしてほしいかがあいまいだと、撮影に時間がかかってしまいますし、撮るべきものが撮れなかったということが起こりかねません。
Webと印刷物の違いは
Web上のオウンドメディアなどで使う写真は、トリミングをせず、横位置でそのまま載せるケースが多いですね。ただし、簡単にできるものだと思われがちなのか、何をどう撮るかの指示がないがしろにされることが多いように感じます。ここでも先にお話しした情報をあらかじめ共有していただきたいですね。
印刷物については、例えば、写真の白いところに、文字を載せることは当たり前にあることなので、撮影の時にそのスペースをあけておくことや、本を開いたときの中側にあたる「ノド」にかからないようにすることなどを考える必要があります。印刷物が左右どちらから開くのか、できれば台割などもあらかじめ共有していただければ。どういうアングルで写真を撮るかなどのイメージがしやすくなります。
印刷物では、かつては現場に編集者が来て、「見開きの予定だけど、4ページになる可能性もあるので、そこは考えておいてほしい」「いい写真なら扉に使うかもしれないので縦位置も撮っておいて」などという指示があって、カメラマンも現場であれこれ工夫をしていました。最近はそうしたことも少なくなってきてはいますが、良い写真を撮るためにはそうしたやるとりも必要なことなのです。
カメラマンが思う、写真の魅力
写真は入り口だなと思っています。
例えば雑誌をめくっていて、いい写真があれば文章を読もうと考えるってことがありますよね。音楽では、ジャケットの写真を見てレコードを買う「ジャケ買い」というのがありましたし、本や雑誌でも表紙の写真を見て買うということもあると思います。映画も何を見ようかなと思って、ポスターの写真を見て決めるってこともあります。
また、1枚の風景写真を見て、そこに旅行に行きたくなることがありますし。うなぎや焼き鳥の写真見たら、匂いがしたり、音が聞こえたりする気がすることもありますね。
写真が入り口になるというのはそういうことで、それぞれのコンテンツにとっても、とても大切なものだなと考えていますし、いい写真が撮れればいいなと思っています。そのためにもしっかりと準備して情報を共有して撮影が進められればと考えています。
カメラマン 田中振一さん
プロフィール
1966年4月 神奈川県横須賀市生まれ。
父親が、自宅の倉庫を現像室にするほどの写真好きだった影響もあり、小学生の頃には父親の一眼レフカメラをもって、当時ブームだったスーパーカーを追いかけた。その後、カメラマンを目指し、英国の写真学校に行くための資金作りのため、単身オランダのホテルで働くも、日本がバブルの好景気となっていると仲間から聞き帰国。写真スタジオに就職しアシスタントとしてカメラマンの仕事をはじめ、オーディオ製品や車などの商品写真、俳優やタレントなどのインタビュー写真、アーティストの演奏の撮影などさまざまなジャンルの写真を撮影している。